ナベヅル
熊毛の八代地区は本州唯一のナベヅルの越冬地。優雅な姿は、見ているだけで癒されます。

ナベヅルを観察するポイント
通常は10月下旬にシベリアから渡来し、北帰行は3月下旬頃です。
鶴を観察できるのは、「鶴いこいの里交流センターから野鶴監視所までの300mの歩道及び監視所の敷地内」とされているため、それ以外のエリアでの観察は控えてほしいとのこと。ツルは夕方暗くなってねぐらに帰り、朝方明るくなって、餌場にやってきます。ただ近年は縄張り争いが激化しているため、監視所(観察所)から見えるのは、1家族だけの場合が多くなっています。他の家族は、八代内の周辺の田んぼにそれぞれ分かれて餌を食べています。
飛翔しているツルの観察は、朝方ねぐらから出てくる時、そして、ねぐらに帰る夕暮れ時がチャンスです。また、ツルがやって来た当初は縄張り争いを頻繁にするため、飛んでいるツルを見ることができるでしょう。縄張り争いが終わって落ち着いてしまうと、飛ぶ姿を見ることは少なくなります。
たとえば、監視所の渡来数の看板に14羽とあっても、いつもは一堂に会することはありません。しかし、北帰行が近くなると、縄張り争いをしなくなり、帰る頃には同じ田んぼにいることが多くなります。その時期は早くて北帰行の一ヶ月前頃です。ただ、近年はあまり集まらなくなっている傾向があります。
ナベヅルの生態

ナベヅルは、ツル科ツル属に分類される大型の鳥類で、シベリア南東部から中国北東部で繁殖し、冬に日本にやってくる渡り鳥です。
全体的に灰黒色をしていて、首から上は白く、頭頂は赤い皮膚が露出しています。身長は、90~100cm、翼長は45~50cm、くちばしは10cm程度で、体重は3.5~4kgほどです。
成鳥と幼鳥の大きさはほとんど変わりませんが、幼鳥は少し茶色がかった色で、特に首から上に茶色の産毛(うぶげ)が残っていることで成鳥と区別することができます。

ナベヅルを漢字で書くと「鍋鶴」で、鍋の底の墨色からきているといわれています。
IUCMレッドリスト(2013)では、現在の世界でのナベヅルの推定羽数は11,600羽とされ、そのほとんどが日本国内(主に鹿児島県出水市)に渡ってきます。同リストでは絶滅の危険が増大している種として絶滅危惧2類に指定されています。
基本的に家族構成は最大4羽です。卵は2個生みます。うまく育てることができれば4羽の家族になります。家族でいる期間は1年と短く、幼鳥とともに一緒に八代に来ても、春になると親が子を追い払う姿が見られます。シベリアに帰ると、親子は完全に分かれ、親はまた卵を産んで、次の幼鳥を育てます。昨年の子はもう一緒にいることはありません。
子別れした幼鳥は、亜成鳥と呼ばれ、独身のツルが集まる青年団に入ります。そこで2~3年一緒に過ごし、一緒に行動をします。そのうちにペアを見つけて結婚したら、群れから離れて、核家族を形成します。そして、子育てをするというパターンです。
青年団の団長が、独身ツルを引き連れて八代に来てくれたら、一気に渡来数が増えるのですが…。
「鶴は千年」と言いますが、実際に何歳まで生きるのかは定かではありません。北九州にお住まいのツルの研究者の方が、足輪を観察し続けて何年通っているのか報告されています。30年程度は生きているようです。


八代のナベヅルの現状
八代のツルは、昭和15年の355羽をピークに徐々にその渡来数が減少しています。原因は、様々ですが、やはり八代を取り巻く環境の変化が減少の原因であることは否めません。
周辺にゴルフ場が出来たり、田んぼの圃場整備、道路網の整備など、野生のツルにとってはマイナス要因ばかりです。ツルを思えば、昔のまま何もしないことが一番ですが、時代とともに人間の生活が変化することはやむを得ません。田んぼの耕作方法の変化(ワラ嚢を作らなくなった)、耕作放棄地の増加によるツルのねぐら環境の変化、などはツルに大きな影響を与えました。
八代地域は、「特別天然記念物八代のツルおよびその渡来地」の指定を受けています。ツルだけでなく、地域全体が指定を受けていますので、今は許可なく急激な変化をさせることは出来なくなっていますが、ツルの渡来数は毎年10羽前後にとどまっています。
周南市では、ツル誘引策としてデコイ(ツルの置物)の設置や、鹿児島県出水市から保護ツル(傷ついた鶴)を譲り受け、一定期間飼育後に放鳥する「ツルの移送・放鳥」などの対策を行なっています。今後、少しずつでも数が増えていくことを期待しています。
(文/徳永 豊)

年 | 渡来数 |
---|---|
1965 | 101 |
1970 | 91 |
1975 | 108 |
1980 | 54 |
1985 | 64 |
1990 | 48 |
1995 | 23 |
2000 | 21 |
2001 | 17 |
2002 | 12 |
2003 | 11 |
2004 | 13 |
2005 | 13 |
2006 | 9 |
2007 | 7 |
2008 | 4 |
2009 | 7 |
2010 | 8 |
2011 | 6 |
2012 | 8 |
2013 | 7 |
2014 | 11 |
2015 | 8 |
2016 | 10 |
2017 | 9 |
2018 | 9 |
2019 | 13 |
2020 | 14 |